翠玉の首輪

ここでこれから書くことに説得力を加えるために

たとえいいカメラを手に入れても役には立たない

写したいのは過去に見た、脳裏に鮮やかに映る光景だからだ。

カコカメラ

そんなものはない。少なくともあと十年は実用化されないだろう。

僕には、それを絵にすることもできぬ。

幸いネットには すでに共有されている幾多の写真や映像があるので

そこは追わないことにする。賑やかしぐらいは加えるかもしれないが。


オームステッドの伝記 を読んで、あれこれ考えている。
言葉にするのが難しいのだが、停滞しつづける考えを動かすために一部無理やり言語化する。

ここ数年のウラシマ期間を超え、自分にとって
今住む街からも、まして日本からも、気軽に出ていける時代は終わってしまった。

というか、それまでがラッキーすぎた。

これからも車や、ときに列車を使って、近くて遠い場所や
遠くて近い場所に旅をするかもしれないし
それは傍からは、軽いフットワークに見えることもあるかもしれない。

だがそれでも、今後の数年から数十年において
基本、拙者はローカルなおじさん、そしておじいさんとして過ごしていくだろう。

ワールドツアーをすることも、バレアレス諸島で詩にふけることも、NYC やパリのシーンで活動することも、

神戸や京都やボストンのような好きな都会で、創作しながら暮らすことも、まずないだろう。

つまり、今いる環境を素敵にしていくか、楽しんでいくしかない、ということだ。

田舎街での暮らしはいいものだが、触発してくれるものに限度がある。大いに。

自然は確かにある。足元をコンクリートで固められ、それでも静かに四肢を伸ばす動植物や土や水が。
励まされ、というより励ましたくなりながら、人気のまばらな、濃淡の少ない景色と共に生きている。

これでいいのだろうか。

ならば好きな自然って、たとえば街中の自然って、どういうものだろう。

街路樹も植え込みも、畢竟、街に飼われている装飾のひとつだ。
見ようによってはありがたいが、アリバイ、みたいに思えるときもある…そっちの方が多いな。

あ、いいな、と思う木々って少ない。何か抑えられている。

あ、いいな、と思う街中の自然って、ぽっとある、放置された丘や、竹藪だったりする。
結構本気で、癒される。

電車の窓から見える自然もそうだ。
朝、疲れて移動しているときも、数十秒だけ見える雑木林にエネルギーもらう。こういうのって大事だなぁ、ってずっと思ってる。

ところがそれらは、確実に買い取られ、消されてゆく。

丘ごと削られ、コンクリで固められ、砂利を撒かれ、洗いざらい植物が伐採され、宅地や工場に変わっていく。

日本にいったいどれだけ、そのような個性のかけらもない、退屈で心を押し込めるような街があるだろう。
同じチェーン店、同じ看板。同じ街路放送。

これでいいと、みんな本気で思っているのだろうか…?

工事の説明会とか行っても、噛み合わない。「基準」をクリアしてるか、経済的か(儲かるか)、金銭補償をするか、そんなのばっかし。

誰が掃除をする。散らかる土や木々に責任を持つ。不思議なことに、ある閾値を超えると、自然は「手入れが面倒」なものになるようだ。
部屋が散らかってる方が落ち着くと言ってた人が、片付け始めると気になってしょうがない、みたいなものか…?
判断のピボットが、コロっと変わってしまうんだろうか。

もう少し真面目に書くと、丘は災害時の土砂警戒区域にあたるから、削ることで警戒を解くことができる。云々。いいことのように聞こえる。
んー、なんかおかしくないか?

自然の丘が警戒区域にあたるのではなく、そもそも周りを削り木を切ったからから崩れやすくなって、石垣やコンクリで止めているのでは。
今度はそれを取り繕うように、全体を削る。やがて丘をなくす。樹木を適切に維持する金もないから、無くしてしまえ。
…?

これは一例。おそらく全国的に、ちょっといい片田舎の風景も、数年から数十年のスパンで平坦化され、蝕まれていく。

僕の田舎だった忍者の里でも、子供の頃はカブトムシがいっぱいいた雑木林や、謎めいた山林が、かなり削られている。
たまに通ると寂しい。現地の人々は「開けた、ニンニン」と思っているだろうか。


オームステッドの伝記では「セントラルパーク」にとどまらず、さまざまな事業への関わりとその前後の人間模様、いざこざ、根回し、などなどが描かれている。計画通りに施工されることはあまりなく、承認されても途中で中断したり破棄されたり、権力者が変わったり、追い出されたり、まぁうまくいかない。

あぁ、実際はアメリカもそんなんだったのか、とか、我が強いアメリカ人同士だからよけいにいざこざばっかりだったのだろうな、とか、理想と現実の違いを見せつけられるようだ。

あるいは、うまくいかなくても気を長く持つとか、諦めないとか執着するとか、倍返しとか、汲むべきはいろいろあるのだろう。

この方、ワーカホリックで何度も鬱病になっているし、最期は自らが敷地をデザインした精神病棟に5年も入っている。成し遂げるって簡単にはいかない。外からは大きな実績に見えたこと、傍から見ても捻じ曲げられたことを含めて、本人が抱え込んだ挫折感ってどれほど大きかったのだろう。


僕はかつて、彼の作品のひとつである公園で、なにも知らずに癒されていた。

セントラルパークではなく、ボストンの「エメラルド・ネックレス」公園群のひとつ、「バックベイ・フェンズ」である。

レッドソックスの本拠、フェンウェイパークの近くからボストン美術館に至る一帯。音大時代このあたりにアパートを借りていた。居候したりシェアしたり…転々と。
この先にもフランクリンパーク、ジャマイカプレイン、彼の名を冠したオームステッドパークなどたくさんの公園が連なり、ネックレス状のパークシステムを形成しているのだが、ベースを背負うか転がして歩くぐらいの行動範囲の僕は、南にはなかなか足を向けなかった。
…ジャマイカプレインあたりには、地名に寄せられたか夏の間レゲエシンガーが住んでいて、呼ばれてリハに通ったっけ…余談

いつも歩いていたこの公園は、単体でも広大であり、とにかく美しかった。
わざとらしさがなく、こんな表現はすごく IQ が低そうだが「自然」な「自然」なのだ。同語反復というやつか。

ボストンのバックベイというところは一応都会なのに、そこから一歩先に、こんな「自然」がすっと広がっていることに驚いたし、慣れてからはずっと幸運を感じていた。すてきだった。どれだけインスピレーションをもらったか、わからない。

だがこれは、人工の自然だった。Artificial Nature とでもいうのだろうか。
オームステッドはチャールズリバーを埋め立てた干潟の水捌けの悪さ、汚泥や悪臭などの問題に着目し、配管敷設で対処。さらに塩生湿地生態系をエミュレーションして設計し、ボストン市当局と折衝しながら、長い間をかけて施工させたのだ。

ボストン市はかつて、港湾にうかぶアイランドのようなものだった。埋め立てを繰り返して広がる都市計画の中で見出した、ロングスパンの賢い答え、だったともいえる。

そしてオームステッドは、エメラルドネックレスの外側の街ブルックラインに、緑に覆われた自宅兼事務所「フェアステッド」を構える。ここでシカゴ万博やベルアイル、ビルトモアなど全米の数多くの案件を手がけ、次世代に引き継いだ。


自然と人工物。そこには常に対立がある。

果たして人間に自然を「つくる」ことなどできるのか、そんな権利などあるのか?
というところまで、割とずっと考えている。3.11以降。

津波と原発事故以降、なにをやるにしても、自然に対する畏れを忘れてはいかん、と肝に命じるようになったし、諸行無常、この世は借り物、とも思っている。

だから、モノに対する所有欲がそれ以降かなり少なくなった。
コロナ後は機材もだいぶ断捨離した。シンセベースもサイレントベースも。使わないし。基本生音なので、ペダルなどももう少し手放すことになるだろう。by the way…

でも、ならば「欲しがりません」の人や街がいいのか?

ボストンの成り立ちで見ても、そもそも埋め立てで街を作ることの是非。この時点でかなりの自然破壊が起こっている。
一方、そこからうまくパークシステムと街をつくったことで、長い時の流れに耐える、魅力的な都市環境ができている - 塩水から真水に湿地帯の生態系が変わっていったことまでは読めなかったようだが。
そして、年月を経て懐かしく思う異国人がここにいる。

もう一つ、トリッキーなのは

欲しがらない人は、人のいうことをよく聞く。人に譲歩するから、結局、利を得たい人の餌食になってしまう。
或いは、頑固に踏みとどまったとしても、周囲に理解されず、よくて世代限りで更地にされてしまう。
あるいは、自然そのものに飲み込まれる。そこには人の立場や力の区別はない。

さて、自然と人間って、なんだろう。
僕らは共存するのだろうか。対立あるいは騙し合うのだろうか。

風呂敷広げて畳めなくなったので、続きは次回。

それはそうと、これらのページなかなかよかったです。響きました。

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