汚すことのできない次元

出会いの輝き 今道友信

哲学者・詩人の今道さんがその生涯で出会ったさまざまな人や本との、「思い出」の記録。
時間はかかるものの、じんとしながら読んでいる。
(どうして敢えて「思い出」なのかは、冒頭に記されている)

モロッコ行きの客船の「底」で出会った、もの言わぬ日本人兵士。絵描きを諦め、フランス外人部隊に入隊したが一言も話さないため、上官から危険人物として排除される直前だった彼は、日本にいる母への手紙を託けて戦地に赴いた。少しは喋る、と約束して。
その翌年に理由あって今道氏は再び一人でモロッコに向かう。サソリが巣食う砂漠の夜に付き添いの現地人は何をしてくれたか。

もう50年以上前のお話ながら、なんという臨場感。

正反対の方言に悩みながら、友や師と夢を語った山形、土佐での中学時代。
東京の成城学園に戻り、思想調査で退学となったあとの旧制一高(東大教養学部)生活。

戦時中、国家統制を強めた政府に対する教師たちのことばが突き刺さる。

軍隊で将校になりたい人は飛び出していきたまえ。死ぬ前に一行でもこのシェークスピアを読みつづけたいと思う人は読み終わるまで残りたまえ。 — 授業の最中に防空演習のサイレンが鳴ったとき、英語の「峰尾都治先生」

今日は皆さんにお別れを言わなければなりません。私はあさって、三等水兵として海軍に入隊しなければなりません。世界は乱れています。しかし、知性の勝つ日はやがてくるでしょう。皆さんはどんな状況にあっても、そう信じて、文化の道を歩んでください。 — 西洋史の「林健太郎先生」

そして。

人間は理性的動物だと言うけれど、詩を創る存在だと言われるほうがぼくはうれしい。詩の世界に生きることは、この戦争の世の中でも汚すことのできない次元を見つけることです。どうして同じ言語が人を殺害する行動や命令や煽動に使われ、そのことを誇りにする人間が多いのか、僕にはわからない。 — ドイツ語の「片山敏彦先生」

ぼくは東大卒ではないし、真面目に勉強しても、入れなかっただろうけれども、
こういう人たちの課外授業を、50年越しで受けてみたいと思う近頃。

* ご存知の方は多いとも思われるが、この方は僕が敬愛するギタリスト・作詞作曲家のいまみちともたかさんのお父さんです。

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