ひびきと構造

しばらく Bill Evans ばかり聴いていた。

ピアノ弾きではないので、彼の音楽の大半を理解していないという思いはある。が、その上で。

エヴァンスのアルバムを最初に聴いたのは Toots Thielemans のハーモニカをフィーチャーした Affinity (1978-79) だった。ベースは Marc Johnson、ドラムは Eliot Zigmund。空気に包み込まれる素敵なアルバムだ。
Paul Simon の “I Do It For Your Love” のカバーから始まっている、ということには、だいぶ後に気づいた。

それから遡って Waltz for Debby や Explorations … (1961)
ベースとの絡みは衝撃的に面白かったが、ビル自身のプレイはタッチも含めて控えめに感じた。
Scott LaFaro の脇役、みたいに思えていたのだ。

1958, Miles Davis バンド参加直後の “Love for Sale” を聴いてから考えが変わった。
イントロからテーマ、バッキング、そしてソロの鋭さ。こんなにとんがってたのか、みたく。

この時の b & dr はフィリー・ジョーとポール・チェンバース。グルーヴしまくってる。

最近、アレンジャーのエンドウさんから教えてもらったビデオで、”Some Other Time” (バーンスタインの曲)を意識して聴き出した。このイントロは…そうか、マイルスの “Flamenco Sketch” と同じだ。改めて Kind of Blue を聴き、ビルの 2nd に遡ると、いろいろ面白い発見があった。

Everybody Digs Bill Evans (1958) は、前述のマイルスバンド加入後、彼が一度解雇されてからのレコードだ。理由は薬物中毒とされているが、当時はキャノンボール・アダレイから音楽面でも「何かが足りない、レッド・ガーランドが恋しい」とダメ出しされていたらしい。

ところが数ヶ月後のこのアルバム、ジャケットに並ぶのは、ジャズメンがエヴァンスを誉めそやすリコメン文。ジョージ・シアリング、アーマッド・ジャマル(!)、もちろんマイルスも。そして一番長い文を寄せているのがキャノンボールなのだ。彼がビルへの評価を覆したのか、自分の中の「ピアニストの基準」を切り変えたのか、とびきりの社交辞令を発揮したのか。

このアルバムはフィリージョーとサム・ジョーンズとのトリオという、グルーヴの塊のような面々だが、ピアノソロ曲の美しさが際立つ。”Peace Piece”。そして「ボーナストラック」扱いの “Some Other Time”。これらが数ヶ月後、再参加したマイルスの Kind of Blue セッションでモードジャズとして結実する… という流れなのだが。

改めて “Flamenco Sketch” のコード(モード)チェンジを聴いていると、”So What” との対になっているようでもある。So What のイントロは Flamenco Sketch と同じく揺蕩いながらゆったり進む。左手(ベース)と右手(コードワーク、ホーン)との掛け合い、という意味でもこの二つは似ている。ベースの動き具合で、こんなに別の曲になる。

ベースという視点で、動の So What、静の Flamenco Sketch といえるかもしれない。

ところが、よく聴くと、というかこの曲を弾いてみるとわかるが、単なる「静」どころじゃない…チェンバースは裏でいろいろ手を回している。ネックの後ろで…

さらに、エンドウさんの指摘によると、Flamenco はラヴェルのボレロと似ている。確かに。
ボレロ = スネアというイメージに惑わされて気づかなかったが、リズムもかけあいも、メロディの動きも、基本構造は同じじゃないか。

フランスの印象派からモードジャズへの流れは定説だが、「ひびき」以外をあまり意識してなかったために、驚くことばかり。

たぶんこんなこと、ある程度音楽やっていれば、常識中の常識なのだろう。

我は何年、何をやってきたんだ。
いつまで経っても、幸せな能天気である。

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